GIFアニメで見る線形代数
行列は単なる「数字の表」ではありません. m×n 行列 A には, n 次元空間から m 次元空間への写像という意味があります. この写像を観察しましょう.
こてしらべ: 対角行列の観察
まずは典型的な対角行列
\(A = \begin{pmatrix} 1.5 & 0\\ 0 & 0.5 \end{pmatrix}\)
- 縦横に伸縮
- 横方向は拡大(1.5倍), 縦方向は縮小(0.5倍)
- 各升目の面積は, 1.5 * 0.5 = 0.75 倍になる. この面積拡大率 0.75 が det A. だから, 対角行列の行列式=対角成分の積.
対角成分に0があると…
\(B = \begin{pmatrix} 0 & 0\\ 0 & 0.5 \end{pmatrix}\)
- 横が0倍 → ぺっちゃんこ
- 面積拡大率 det B = 0
さらにマイナスまでいくと…
\(C = \begin{pmatrix} 1.5 & 0\\ 0 & -0.5 \end{pmatrix}\)
- 縦が-0.5倍 → 裏返し
- こういうときが det C<0
固有値・固有ベクトルと対角化の観察
対角じゃない一般の行列だと, こんなふうに歪みます
\(D = \begin{pmatrix} 1 & -0.3\\ -0.7 & 0.6 \end{pmatrix}\)
- 歪む
- それでも「曲がる」わけじゃなく, 直線は直線, 平行は平行のまま
- D の 1 列目が \(\begin{pmatrix} 1\\ 0\end{pmatrix}\) の行き先, 2 列目が \(\begin{pmatrix} 0\\ 1\end{pmatrix}\) の行き先. この二つを知れば, 全体の移り具合も見当つく
固有ベクトルを描くと…
- 矢印は伸び縮みするけど, 方向は変わらない. こういうのが固有ベクトル.
- 伸縮率が固有値. 伸びてる方は固有値1.3, 縮んでる方は固有値0.3
固有ベクトルの方向に斜交座標をとると…
- 座標軸方向にそった伸縮だけになる
- つまり, こういううまい座標をとれば, 対角行列のときと同じような状況にできる. これが対角化ということ.
- 各升目の面積は, 1.3 * 0.3 = 0.39 倍. だから面積拡大率 det D = 0.39 = すべての固有値の積.
ランクと正則性の観察
行列によっては, 空間がぺちゃんこにつぶされることもあります
\(F = \begin{pmatrix} 0.8 & -0.6\\ 0.4 & -0.3 \end{pmatrix}\)
- 移った先はぺっちゃんこ(一直線). この直線が F の像(Im F).
- 移った先(Im F)の次元数をランクという. この例では直線だから1次元(rank F = 1).
- つぶれるということは, 移った先の次元が元より減るということ(rank F < 2). こういうのが特異行列. もしつぶれなければ rank F = 2 のはずで, そういうのが正則行列.
- つぶれてるんだから, 面積拡大率 det F = 0
- \(\begin{pmatrix} 1\\ 0\end{pmatrix}\) の移り先(F の 1 列目)と \(\begin{pmatrix} 0\\ 1\end{pmatrix}\) の移り先(F の 2 列目)が, 独立な方向じゃなくなってる
固有ベクトルを描くと…
固有ベクトルの方向にまた斜行座標をとると…
- 固有値0の固有ベクトル v にそった直線上の点は, みんな原点に移ってしまう. この直線が A の核(Ker A).
- 他についても, v と平行な直線上の点はみんな一点に移ってしまう.
- ということは, 移り先を聞いても, 元がどこだったかは特定できない. 逆行列が存在しないというのはこういうこと.
- もとの次元数(平面だから2次元) - つぶれた次元数(Ker A は直線だから1次元) = 残った次元数(Im A も直線だから1次元). これが次元定理.
行列式の交代性の観察
行列 D の列を入れ替えると…
\(G = \begin{pmatrix} -0.3 & 1\\ 0.6 & -0.7 \end{pmatrix}\)
- 裏返しになる. こんなときが面積拡大率 det G < 0
- 行列 D と比べると, 枠の平行四辺形は同じだが中身が裏返し. だから det G = - det D
- 行列式の交代性とはこういうこと
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